和食料理人を志す
あるいは進路を迷っている人に、
講師たちのリアルな声をお届け。
なぜ料理人になったのか、
どんな人が向いているかなど、
想いを語ります。

料理人になった理由は人それぞれです。私は、ものづくりと食べることが好きだったので、料理の道を選びましたが、遠藤さんは?
うちは父が洋食の料理人で料理が身近でした。高校生のころ、一度料理人をやってみれば?と言われたのがきっかけです。兄も和食料理人で、2人の影響はあったと思います。


どうして洋食ではなく和食に?
父に和食のほうが息の長い仕事だと言われました。それに、小さいころから植物が好きで和食につかう敷き葉なんかにも興味があって。今でも自分で育てたり、摘みにいったりしています。好きなものが仕事に活きている感じですね。

私は“たまたま”です。料理も、ものづくりも得意ではなかった私が、20年以上続いているのは、人付き合いも含めて楽しかったのでしょう。志して料理人になる人もいますが、意外と“たまたま”や“なんとなく”の人は多いように思います。学生さんたちも、そんな感覚でこの世界に入る子が多いのではないですか。


なんとなくから続くかどうかは「自分の作った料理が、お客様に喜ばれるのがうれしい」と、思い続けられるかにあるかもしれないね。実際は若いときにお客様の前に立って料理を任されて出す機会はあまりないので、日々の雑務に追われて「こなす」のが精一杯、料理への想いが薄れてしまう。

理想と現実が違ってしまうんですよね。


でも昔のように、弟子に入って修業するような徒弟制度が薄れてきました。最近の働き方改革だと、業務時間だけではなかなか成長できないという現実もあります。
1日8時間で週休2日。今の働き方だと、仕事の時間は仕事をしなければいけないし、勉強の時間がないですよね。ではどこで勉強するのか。勉強時間を自分で持たなければ技術が上がらないのが、業界の課題だと思っています。


それはよく言われるね。1日8時間じゃ正直、何も覚えられない。
若いうちはやれと言われてもできません。先輩の仕事を見て覚えるのも難しく、こちらも強制的に練習させなければならない。手取り足取り教えてもすぐ覚える子、なかなか覚えられない子もいる。

義務教育ではないですが、料理の世界にもある程度の義務勉強が必要だと思っていて。プロというのは、どんな業種もそんなに甘い世界ではないのですよ。


和食の場合、技術はもちろん、文化とも密接で、そこを学ぶことも必要です。でも若いときは興味が持てないですよね。仕事以外の時間で学ぶなんて、さらに難しい。だからこそ、当スクールでは伝統文化のカリキュラムにも力を入れています。


誤解をおそれずに言うと、和食料理人が自分に合っていないと感じたら、その道をやめたらいいと思っています。料理という枠は大きい。和食だけが料理ではないし、定食屋さんでも、うどん屋さんでも、違う形で自分に合う道に進めばいいのです。
我々は和食の料理人を育成するのが本来あるべき姿ですが、本人に合わないのであれば「この世界は君が思っている世界じゃないよ」と言ってあげるのも大切なことだと考えていて。それでも志したいという人は、もちろんサポートします。


一人ひとりの適性をふまえて、進路のアドバイスをすることも我々の役割だと考えます。当スクールは技術の向上よりも、素材のことや伝統、文化のことなど包括的に料理を学ぶことに重きを置いています。最低限のことを知って、料理の世界で羽ばたいてほしい。もちろん、それが和食の世界なら、そんなにうれしいことはありません。
学生さんが感じる理想とのギャップには、設備もあるかもしれません。学校のように広く、火口が多く充実した厨房の店はそうありません。限られた環境下で、いろんな料理や雑務を同時進行でやるのが仕事。余った食材で手際よく“まかない”だって作らないといけないしね。



手際や段取りを日々判断するのは、学校では学べない部分でしょうね。難しい料理よりも、まずは身近な食材や余りものでシンプルに美味しいものが作れるのは、大事なスキルです。うちの店の若い子は、まかないで個性を出そうと考えすぎるようです。
発想も大事だし料理が好きなのはわかるんですけどね。個性を出そうとしすぎるところは確かにありますね。

個性は出すものじゃなくて、出るものなのですよ。やらされているという意識があるうちは、なかなか技術も伸びませんが、すすんで仕事をやっていると、技術が身について個性が出てくるものです。

不器用な子ほど伸びますね。器用な子はできたら努力をやめてしまうことが多い。


素直で何事にも興味を持って行動できる人は料理人に向いていると思いますが、とにかく素養を身につけて、あとは入ったお店のやり方やカラーに染まるのが一番。幅広くいろんなことを教えますので、適性がある、料理が好きだと感じた人は、料理の道で生きていってほしいですね。
京都ガーデンパレス 花ごよみ料理長
遠藤 正博
1976年生まれ。高校卒業後、洋食の料理人である父のすすめで和食料理人を志す。京都市内近郊のホテル、和食店が懐石、割烹、精進料理等の修業を経て1998年に京都ガーデンパレスの和食副料理長に就任。現在は料理長として活躍している。武将好きとしても知られ、武将めしを現代風にアレンジしたり、和食に合うスイーツを作ったりと創作に余念がない。庖勝一條流の式庖丁の使い手として神事で技を披露する一面も。京都府調理師会理事。
AnotherC オーナーシェフ
富永 暖
1981年生まれ。10歳からニューヨークで過ごしNY Port Washington Schreiber High School卒業後、帰国し京都で日本料理人の道へ。「貴船ひろや」「日本料理櫻川」で修業を積み2004年再び渡米。世界の美食家が訪れるNYトライベッカ「MEGU」にてHead Chefとして陣頭指揮をとる。2015年に京都に「AnotherC」をオープン。オーナーシェフとして腕を振るう傍らメディア等でアクティブに活動中。著書に『NYセレブを魅了した天才シェフの超簡単 ひらめきレシピ』(光文社)がある。